月日が流れて
帰国後、私はプナンの村での体験を語り、旅の日記を新聞に連載してもらうなど、この経験を風化させないよう努めてきた。
月日が流れ、ボルネオ島の森林伐採やプランテーションにおける人権問題、パームオイルの背景については、以前より多くの人に知られるようになったと思う。
帰国から十年後、僕は会社を退職し、環境問題により深く関わるようになった。それでも心のどこかには、いつもあの村の子どもたちの姿がある。
2021年、東京オリンピック準備で沸き立っていた頃、私の目に衝撃的なニュースが飛び込んできた。
環境配慮型と評価されていた新国立競技場で、表に見える部分には国産材が使われている一方、基礎工事に用いられる型枠材として、ボルネオ島由来の木材が使い捨てにされているという報道だ。
30年近く経っても、本質的な構造は変わっていない。
この地球には、森林伐採や先住民の人権問題以外にも、数多くの課題がある。
戦争や紛争の背景は、地下資源の争奪だけでなく、食料や水をめぐる争いも加わっている。
根本原因である一人ひとりの心の在り方が変わらない限り、問題は姿を変えて繰り返されるだろう。
この激動の時代を生きるためのヒントは、プナンの長老の言葉にあると思う。
それは「心を奪われないこと」。
尽きることのない欲望、不安、恐怖、怒り。
そうしたものに、静かに向き合うことだ。
この世界は、私たちの内面世界の投影だ。
この28年、地球環境や内なる平和に関わる活動に携わってきて、確信することがある。
自然との調和や世界の平和は、まず心の中に調和と平和を持つ人びとによってこそ実現する、ということだ。
僕たちが今できることは、自分の内面を整え、本当の自分の声に耳を澄ませ、その声に正直に生きること。
今こそ僕たちは、より大きな自分として、心の自由を取り戻す時なのだ。
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