28年前の旅から始まる物語②

静まり返ったヤシ林の奥で

 

巨大なパイナップルツリーのような樹形が、果てしなく続く一面のヤシ林。

一見すると、南国らしい豊かな自然の風景に見えるかもしれない。

しかし、その林の中に一歩足を踏み入れた瞬間、僕は強い違和感を覚えた。

そこには虫の声も、鳥のさえずりも、小動物の気配も感じられなかったからだ。

生物多様性に満ちた本来の熱帯林とは異なる、静まり返った空間だった。

 

ボルネオ島では、先住民が暮らしてきた森が皆伐され、焼き払われて整地された後、オイルパームのプランテーション(単一作物を大規模に栽培する農園)へと転換されてきた。

暮らしの場であった熱帯林を失った先住民の人びとの多くは、生活の糧を求め、やむなくプランテーションの労働者として働くことになる。

当時のプランテーションでは、日本や欧米諸国ではすでに使用が厳しく規制、あるいは禁止されていた農薬が使われている例もあった。また、賃金が約束通りに支払われない、いずれは土地を返還するという合意が守られないなど、不当で過酷な労働条件が報告されていた。こうした問題は、国際NGOや国連機関によっても長年指摘されてきた事実だ。

 

僕たちを案内してくれたプランテーションの労働者は、ヤシ林で働く少年を指さし、静かにこう語った。

「農薬の影響で、呼吸器や皮膚を痛めている。長くはもたないかもしれない。ここは“緑の監獄”なんだ」

 

パームオイルの需要は、今もなお世界的に旺盛だ。マーガリンや加工食品、ファストフードの揚げ油、ショートニングやアイスクリームといった食品用途に加え、石鹸、洗剤、化粧品、さらには工業製品の原料としても、パームオイルは世界で最も多く使用されている植物油脂の一つだ。

私たちの暮らしは、その恩恵の上に成り立っていると言っても過言ではない。

そしてその恩恵は、森に住む人々や動植物たちの犠牲と引き換えだ。