タオ的 ウサギとカメ

最近ご縁があって、自閉症やADHDなど発達障害と言われている子どもたちと、一緒に過ごす時間を頂いてます。

先日その施設の職員の方が「ウサギ🐰とカメ🐢」を子どもたちに読み聞かせていました。絶対に勝てないと思われたカメの頑張りを取り上げ、「みんなも勉強や身の回りなことができるように頑張ろうねー」と締めくくっていました。

 

それを聴きながら、私がこの物語を読み聞かせるとしたなら、いや、もし私がこの物語をタオ的に描き直すとしたなら...

と考えていました。

 

 ある森で、ウサギとカメが出会いました。ウサギは風のように速くぴょんぴょんと跳ね回り、カメはまるで大地と一体になるかのように、ゆったりと一歩ずつ歩んでいました。

 ウサギはカメを諭すように言いました。「カメさん、そんなにのんびりしてたら、いつになったら目的地に着けるんだい? もっと急がないと!」。カメは穏やかな眼差しで答えました。「僕は急いでいないんだ。ただ、大地のリズムに合わせて歩いているだけさ。風の歌を聴き、草花のささやきに耳を傾け、水と心を通わせる。そうして歩くのが、とても楽しいんだよ。」

 ウサギは少しあざけりながらも言いました。「それなら、どっちが早くあの山のふもとの泉に着けるか、勝負してみようか?」。カメはにっこり微笑み、静かにうなずきました。ただ彼の心には、勝敗というこだわりは少しもありませんでした。

 レースが始まりました。ウサギは勢いよく駆け出し、あっという間に姿が見えなくなりました。彼は途中の木陰でこう考えました。「こんなに差をつけたんだ。少し眠ってからでも、あのノロマなカメよりはるかに早く着くだろう。」自分の速さとカメの遅さを比べて、自信に酔いしれて深い眠りに落ちました。

 一方、カメは、ただひたすらに歩み続けました。大地とのつながりを感じ、呼吸を整えながら一歩一歩進みました。彼の中には勝つことへのこだわりも、負けることへの不安もありませんでした。道の途中で見つけた花に感動し、清らかな小川のせせらぎに耳を傾け、木々の葉が風に揺れる音を味わいました。

 ウサギが目を覚ましたとき、日はすでに西の空に傾き、森は夕焼け色に染まっていました。彼はぎょっとして、慌てて泉に向かいましたが、そこにはすでにカメの姿がありました。カメは静かに水面を眺め、まるで風や水と語り合っているかのように、穏やかなたたずまいでした。

 ウサギは息を切らしながら問いかけました。「な、なぜだ!? あんなに僕が速かったのに、どうして君が先に着いたんだい?」。カメは静かに微笑んで答えました。「僕は、早く着こうと頑張ったわけじゃないよ。ただ、僕が心地いいペースで歩いてきただけだよ。そうしたら、泉が僕を自然に迎え入れてくれたかのように、気づけばここにいたんだ。」

 ウサギは、その言葉を聞いて、しばらく何も言えませんでした。彼の中で大切にしていた、「速さ」や「勝敗」という考えが、音を立てて崩れ去っていくようでした。

 やがて、風が水面をふわりと通り抜け、木々がささやきました。

 その日以来、ウサギもまた、風の声に耳を澄ませ、焦ることなく、自分の心地よいリズムで跳ねるようになったといいます。彼らは、もう互いに競い合うことはありませんでした。ただ、それぞれがそれぞれの「道(タオ)」を、穏やかに歩み続けたのです。

 

 こんな話を子どもたち、いや大人に読み聞かせてみたい。